「思い込み」から生まれるもの

 

4月に入りましたね。

  

 桜をはじめ、様々な花々が咲き匂い、入学・進学・就職といった人生の節目の想い出もよみがえり、心に浮き立つものを感じます。これを力にして、やろうと思いながら停滞している取り組みを、少しでも前に進めてゆこうという想いも、新たになりました。


 少し前の、まだ寒さが厳しかった頃のことでしたが、新聞の投書欄にふと目に留まり、何度も読み返した投稿記事がありました。

 宅配便の再配達に関する意見の投稿でした。

 

昨今、再配達のために配達員に多大な労力がかかっていることが話題となって、主要な宅配業者も労働条件を改善することに取り組み始めていますが、その投稿は、利用する側も意識をもつべきという観点から、自分の家庭で心がけておられることを述べたものでした。

 

 その末尾に、投稿者の家で留守中に荷物が届いて再配達をお願いした場合には、その指定の時間までにお連れ合いが缶コーヒーを暖め、配達員が来て下さって荷物を受け取ったときに御礼にとお渡しする、という話がありました。

 この話を読んでまず最初に感じたことは、なんともまぁ、優しい気遣いをされる、奇特な人がおられるのだなぁ・・ということでした。

 年中そうというわけではなく、冬の時期だから暖かいコーヒーを、ということのようでしたが、仕事で玄関先に立ち寄っただけの人にそこまでの配慮をされるとは驚きでした。

 

 しかし、わずか一分ほどの間に、ひねくれ者の私の頭には疑念が沸いてきました。

 「なんで缶コーヒーやの」  と。

  そう思ったのは、私が缶コーヒーを好まないからでしょう。

 特に砂糖入りの甘いタイプはいつも敬遠していますから。

 

 渡されたのが甘味料入りの缶コーヒーだとしたら、ブラック好みの人には有り難迷惑。

 その逆もしかりです。

 コーヒーそのものが嫌いな人、体質的にコーヒーがダメという人もいます。

 コーヒーさっき飲んだとこやがな・・(つい関西弁になってすみません。)と思う人もいるかもしれません。

 プルタブタイプだと開けたら飲み干してしまわないといけないし、空き缶の処分に困ることもあります。

 近所に続けて配達しようとしている人には、その手を塞ぐことになって迷惑になるかもしれません。

 暖めたといっても、今は飲みたくない、忙しくてすぐに飲めない・・と放置しているうちに、冷めてしまうかもしれません。

 

 投書の主は、缶コーヒーを受け取った方々にとても喜ばれると締めくくってありましたが、喜んだのは優しい気遣いがわかるからであって、缶コーヒーをもらったことにではないでしょう。

 感謝やねぎらいの気持ちを伝えるなら、「ありがとう、ご苦労様」と気持ちをこめて言うだけで十分ではないかと思います。

 

 缶入り飲料ならば、家庭でも暖めやすいし、冷めにくいし、その場で飲むよう強要することにもならないし、冷たくなった手を温めるのにもいいので、その点においては投書の主のお連れ合いの思いつきは、グッドアイデアだと思います。しかし、私が言及したようなネガティブデータがこの方の頭に浮かんだならば、別のことを考えたことでしょう。ご自身が缶コーヒーを好んで飲まれるからかもしれませんが、運転業務をする人にあげる寒い日の飲み物は暖かい缶コーヒーが一番だ、というような思い込みが、せっかくのグッドアイデアの価値を低下させてしまったように感じました。


 

 またしても三文記事特有の些末な展開になって恐縮ですが、商品の開発や企画においても、上記のエピソードに似たような思い込みによる失敗が生じることが多いのではないか、という問題提起につないでみます。

 

 技術的に優れたものを開発できたとしても、特許を取得したとしても、それで売れるモノができるとは限りません。先のコーヒーの事例のように、「みんな『いいね』と思う、欲しいと思うに違いない」と思い込んで開発を進めた結果、エンドユーザーが望むものからずれてしまったり、技術を極めることにこだわりすぎて、できあがったものが「欲しいけど手がでないねぇ」と言われてしまうようなお値段になってしまう可能性があります。

 

 そうなるのを回避するには、開発・企画の段階から対象とするモノのニーズを意識し、エンドユーザーの状況や反応を想像しながら検討をし、エンドユーザーに適した仕様を考えてゆく必要があります。

 知的財産の保護についても、開発の最後になって特許事務所にかけこむようなことをしていてはダメです

 できあがったモノで出願をするという意識ではなく、一連の取り組みの中で常に、「売れるモノ」「使ってもらえるモノ」におよぶアイデアやデザインを保護するという意識を持つべきです。

 

 ところで、先日改訂された広辞苑第7版で「思い込み」を引いてみたところ、

思い込むこと。固く信じて疑わないこと」とありました。

 

 つづいて隣の「思い込む」の項をみたら、以下の3つの意味が記載されていました。

  (1) 深く愛する。強くひかれる。

  (2) 固く決心する。

  (3) すっかりそうだと信じてる。信じ込む。

 

 私は、これまで、3番の意味でしか「思い込み」という言葉を捉えていませんでした。

    まさに「思い込み」という言葉に対して③の意味での思い込みをしていたとわかりました。

太陽の塔(岡本太郎作)
太陽の塔(岡本太郎作)@万博記念公園

  先に述べた「思い込みによる失敗」の「思い込み」の意味は3番になるわけですね。これは当然に避けるべきですが、1番2番の「思い込み」は逆に必要ですね。

 

 これだっと思いついたアイデア、これやりたいと思ったビジネスプランを深く愛し、これを具現化するために頑張ると固く決心することができなければ、成功はあり得ませんから。

 

 ただ、1番や2番だったはずの思い込みが3番になってしまい、エンドユーザーが見えなくなってしまうことがないように、くれぐれも注意しなければなりません。

 

 悪い意味での思い込みを回避するには、少し異なる目線から見る人の意見やアドバイスが役に立つと思いますが、特許などの申請の可能性を考えると、誰彼なしにアイデアを開示するわけにもゆきません。

 

 だからと言うのも面はゆいですが、弊社にならばその心配をせずに、相談していただくことができます。

 

京都・鴨川
京都・鴨川

   特許申請が可能かどうか

   権利の侵害の可能性はどうか

 というようなガッツリ知財系の話だけでなく、

   エンドユーザーに受け入れてもらえる商品になるだろうか

   売れるモノにするためにもう少し工夫できることはないか

   どういう販路の可能性があるだろうか

  というような、マーケティング的な要素まで含めたご相談を承っています。

   

 そうすることが、弊社としての思い込みです。

 もちろん1番2番の意味での・・・・・

 

株式会社知財アシスト

 代表取締役 小石川 由紀乃(弁理士)


小石川由紀乃 プロフィール

 理系出身者が圧倒的多数を占める弁理士業界において、大学で神経生理学や心理学を専攻した後、百貨店の書籍部門での勤務などを経て知財の世界に足を踏み入れた少し変わり種の弁理士。

 特許事務所勤務の傍ら、独学に近い無手勝流の受験勉強を経て、2005年に弁理士試験に合格。当初は、与えられた仕事をするだけのひきこもりタイプの勤務弁理士であったが、あるとき意を決して、外部との交流や情報発信などの活動を始める。

 中小企業のクライアントが多い特許事務所に長く勤務して見聞きした実情をふまえ、自分なりにできることをしようと、2013年に知的財産に関する専門部署を持たない企業に向けた知財サービスを提供する事業所:知財サポートルームささら(現・ささら知財事務所)を開設。

 より充実したサービスの提供を目指して、2015年8月に株式会社知財アシストを設立し、代表取締役に就任。