特許権を侵害するとは?

特許権抵触かと悩む開発者

 

 「特許取得とうたって売り出されたライバルB社の新商品。

 同分野の商品を開発していたA社は大慌てです。

 

 「先を越されてしまった・・・もう開発を中止するしかないか・・・」と落ち込む開発チーム。 しかし「あきらめるな! 研究してなんとか特許権に抵触しないような工夫をしろ!」という社長の命を受け、開発チームは、B社商品を入手して自社のものとの比較・検討を始めました。 

 

 しかし・・・

 上記のA社の対応には大きな誤解があります。B社の商品を調べてその一部を変更したり、B社商品にはない工夫を組み込んでも、相手が持つ特許権に抵触しない状態になるとは言えないのです。

 もちろん、相手の商品を調べてより優れたものを目指すことは必要ですが、それより前に、B社が取得した独占権の範囲がどのようなものかを知る必要があります。多くの場合、実際の商品は独占権の範囲の中の1点にすぎず、その商品に対して差が生じるようにしても、独占権の範囲から抜け出すことができるかどうかを判断することはできません。

 他社の特許権を侵害しているかどうかを確認するには、該当する特許の番号をつきとめて特許公報を取得し、その中の「特許請求の範囲」の内容と自社の商品とを比較する必要があります。 実際の特許請求の範囲の記載は抽象的かつ複雑ですので、B社の特許発明の特許請求の範囲を簡略化して表してみます。

 

 【請求項1】

  特徴X有する部材Pと、特徴Yを有する部材Qとを具備する装置。

 

 部材P,Qは、この種の装置が通常備えるもの、部材Pの特徴X、部材Qの特徴Yは、いずれも新しいものとします。

 また、特徴X,Yは、実際のB社製品に搭載されている特徴X1,Y1の機能を抽象的に表現したもので、下図のように、特徴Xは、X1のほか、X2,X3,X4,X5の4タイプを包括する概念のもの、特徴Yは、Y1のほか、Y2,Y3を包括する概念のものであるとして、説明します。

特許請求の範囲の概念

 上記のケースの場合、各特徴を組み合わせた15タイプの装置の全てにB社の特許権の効力が及ぶことになります。

 B社が実際に販売しているのがX1Y1との組み合わせのみであるとしても、A社が他の14タイプのいずれかを製造すると、A社の商品はB社の特許権を侵害するものになってしまいます。

 

 現実には、特許請求の範囲に含まれるタイプを上記の例のように決めうちするのは困難ですから、A社の開発中の商品のP部材、Q部材が特徴X,Yの要件を満たしているかどうかを、特許請求の範囲から読み取らなければなりません。

 A社のP部材,Q部材が特徴X,Yの要件にあてはまる場合、その他にどんな技術的特徴があってA社の新商品がB社の商品に勝るとしても、その商品はB社の特許権を侵害するものとなり、A社は製造・販売することができません。

 しかし、P部材は特徴Xの要件を満たしてもQ部材は特徴Yの要件から外れる場合や、Q部材は特徴Yの要件を満たすがP部材が特徴Xの要件から外れる場合には、A社の商品はB社の特許権を侵害するものとはなりません。この確信が持てるならば、A社は安心して新商品を出すことができます。

 A社の新商品が特徴X,Yのいずれも備えていないという場合には、言うまでもなく、A社の新商品がB社の特許権を侵害するおそれはありません。

 先にも述べたように、特許請求の範囲の実際の記載は抽象的で容易に理解できないことがありますので、できるだけ弁理士の見解を求めて判断するようにして下さい。

 

弁理士 小石川 由紀乃/知財よろず相談員