知財雑学・知財小話

 知的財産制度に対する誤認識から生じる問題、事業活動のなかで実践していただけそうな手法、基礎知識などをまとめています。


新規の企画を検討中の方々へのメッセージ

---必ず早めに商標や特許の調査をしましょう!---

 あまり気の利いた表現ではありませんが、新しい企画を考えておられる方々や、いずれ企画される可能性がある方々に意識していただきたいことをストレートに表そうという趣旨で、上記のようなタイトル・副題を設定しました。

 なお、新規の企画には開業も含まれます。開業の準備をされている方も、是非、以下をご一読下さい。

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特許公報を読み慣れていない方への読み方アドバイス

 特許公報は、特許権の効力の範囲や発明の具体的内容を世の中に知らせるために特許庁により発行された刊行物です。

 

 特許に関して何らかの目的の調査をする場合や特定の特許発明(または特許出願中発明)の内容を確認したい場合には、特許公報を読まなければなりませんが、特許の実務に携わっていない方々、特にはじめて特許公報を読まれる方やそれに近い方など,特許公報の読み方のコツをつかんでおられない方々にとって、特許公報を読み解くことはかなり難しい作業になるだろうと思います。

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特許かんたん解説「新規性喪失の例外規定」

 前回記事の「発明の新規性」で述べたように、他の誰からも発表されていない発明であっても、その発明をした当人やその当人から特許を受ける権利を譲り受けた者(発明者の勤務先企業など)によって発明が公開されると、発明の新しさは失われ、特許を受けることができなくなってしまいます。

 しかし、この原則を厳格に運用することは酷であるので、一定の条件を満たす公開行為に関しては、例外的に発明の新規性は失われなかったものとして取りはからおう・・・という救済規定があります。

 発明の新規性喪失の例外規定 と呼ばれる規定です。

 

 この規定の適用を受けるには、以下の条件の全てを満たす必要があります。 

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特許かんたん解説「発明の新規性」

 まだ誰も考えついていない新しいアイデアならば、特許を受けられる可能性がある・・・

 このように認識されている方が多いのではないかと思いますが、特許法に照らして新しい発明と言うためには、もうひとつ、必要な要件があります。

 世の中にまだ知られていない、秘密の状態にあるアイデア

でなければなりません。

  厳密にいえば、発明をした当人が、秘密を守ることを約束させずに周りにいる人に発明の内容を伝えてしまうだけでも、発明の新しさは失われてしまいます。

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特許かんたん解説 審査請求はいつする?

 特許庁に提出した出願書類について審査を受けるには、出願審査請求という手続をしなければなりません。

 出願審査請求は、出願の日から3年までの間であれば、いつでもすることができます。

 早期に特許権を取得することを望む場合は出願手続と同時に行っても良いですし、期日ギリギリまで待って行うこともできます。

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特許かんたん解説「国内優先権」

 先日解説したパリ条約の「優先権」は、最初の特許出願をした国とは別の国に対して効力が生じる権利でした。

 この他の国への出願用の「優先権」のほかに、日本国には、日本国内のみに効力を及ぼす「国内優先権」という優先権の制度があります。

 国内優先権も、基本的な部分はパリ条約の優先権と同じ・・・

つまり、ある特許出願(基礎出願と言います。)を行ってから1年以内に、基礎出願の書類に記載されていたのと同じ内容を含む別の特許出願を基礎出願に基づく優先権を主張して行うと、基礎出願の書類に記載されていた部分が基礎出願の日に提出されたものとして取り扱われる、という便宜を受けられる制度です。

 パリ条約の優先権を主張する出願では、提出する書類は基礎出願と実質的に同内容(基礎出願の書類の翻訳文)になることが多いですが、同じ国(日本)に同じ名義で同一内容の特許出願を2回提出することは、常識からみてあり得ません。

 国内優先権の制度は、特許出願後に、その出願書類に何らかの追加や変更を入れたい・・という事情が発生したときに利用されるので、基礎出願の内容の大半を包含しつつ新しい要素が加えられます。

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特許かんたん解説「優先権」

発明の新しさの喪失_説明図

 特許権は、世の中にまだ知られていない(新規性がある)発明に付与されるものです。

 発明の新しさは、発明をした当事者ら(発明者やその所属企業)が、プレゼン、展示会への出展、発明品の販売等の公開行為を行うことによっても失われてしまいますので、そのような公開の予定がある場合には、公開より前に特許出願を完了しなければなりません。

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古い知財のリノベーション

 「リノベーション」ということばを最近よく見聞きします。

 「修復」「改善」「刷新」と言った意味合いを持つ英語(renovation)のカタカナ表記です。

 専ら、不動産・建築業界で、古びた建物や部屋を見違える状態に変身させることを表す言葉として使われ、はやりの言葉になっていますが、本来の意味はそれに限定されるものではありません。

 

 知的財産の分野でも「リノベーション」と言えるケースがあるなぁ・・と思いあたりました。

 

 もうとうに権利がなくなってしまったアイデアに着目し、その利点を活かしながら新しい観点からてこ入れし、もういちど世に出してゆく・・というケースです。


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知財への取り組み経験が乏しい企業が陥る落とし穴

 P社は組み込み機器の受託開発を手がける小企業です。

  これまでは顧客からの注文に応じて開発をするだけで、自社製品と呼べるものはありませんでしたが、創業から10年が経過したことを契機に自社独自の企画・開発に取り組もうということになり、役員で技術者のK氏をリーダーとするプロジェクトチームが結成されました。 

 

 開発のテーマがなかなか見つからず難渋しましたが、やがて、ある用途に特化した電子機器を思いついて企画・設計を進め、プロトタイプの製作にまでこぎつけました。動作テストの結果も良好です。

 ITやIoTの公知技術を応用したもので、画期的な工夫があるとは言えませんが、ターゲットとした分野で同様の仕組みをもつモノはまだ見当たりません。 

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特許出願が持つ化け機能?

秋晴れの大阪市内
秋晴れの大阪市内

 特許の申請(特許出願)の対象となるのは、ある程度のレベルの技術的特徴が認められるアイデアであって、技術的特徴が乏しいアイデアは実用新案登録を選択せざるを得ない・・・

 技術的特徴が乏しくともデザインの創作性があれば、そのデザインについて意匠登録を受けるという選択がある・・・

 

 一般的には妥当な認識ではありますが、今回の記事では、

 そのように決めつけてしまう前に

 特許出願が持つフレキシブルな機能

を活用することを検討してみてはいかがでしょうか

 という提言をいたします。

 

 その機能を、ちょっと乱暴な言葉で表現しますと、

 実用新案にも意匠にも化けられる機能、というものです。

 

 当たり前の言葉で言い直しますと、

 特許出願を実用新案登録出願または意匠登録出願に変更することができる

変更出願という制度を利用する、

という話になります。

 

 実用新案の出願は、実体的な審査が行われることなく、出願から数ヶ月で登録されてしまいます。

 「権利」と言っても内容の吟味をされることなく登録されたものなので、侵害行為が発生した場合の権利行使が困難ですし、権利期間も短くなります(出願の日から10年間)。

 

 意匠登録で保護できるのは、あくまでもデザインの面での特徴です。悪質なコピー行為を防ぐには有用な権利ですが、技術的工夫を保護するのは困難です。

 デザインを変更して同等の機能を持つものが製作される可能性がある場合や、自らもデザインの色々なバリエーションをお考えの場合には、複数件の意匠登録が必要になる可能性が高いと思います。 

 

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その特許は必要か?

 以前、中小・ベンチャー企業に特許は無用・・・?という記事のなかで、

 「中小企業は大企業のように多方面から特許を取得することは難しいかもしれないが、だからといって中小企業が特許をとることが無駄であるということにはならない。

 保有する数はしれていても、特許が事業を守る生命線となることも多い。」

という意見を述べました。

 

 この記事とはやや矛盾するように感じ取られるかもしれませんが、今回は、

 特許を取得したこと、またはその取得のための手続(特許出願)が、事業活動にとってマイナスの効果をもたらすことがある、

という趣旨の話をします。

 

 その可能性がいちばん高いと思われるのは、ノウハウの開示にあたる特許出願をしてしまうこと。

  企業秘密として守れば良いと思われる製造方法や管理方法を、特許出願によってわざわざ公開してしまう、というケースです。

 

 特許を受けることができたとしても、それで他社の実施を禁じられるのは特許が認められた範囲(特許請求の範囲)に限られます。

 他社が、特許の公開書類(特許公報)を見て権利に抵触しない範囲で特許に近い方法を実施したり、公開書類の内容をヒントにして特許発明とは異なる方法を考えることは、なんら妨げられません。

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その特許で大丈夫?

 日本で現在有効な特許権の中には、実施されることがないまま存続しつづけているもの(いわゆる休眠特許)が相当数あります。

 特許権を維持するには、特許発明を実施しているか否かに関わらず、国の定めた一定額の特許料を支払わなければなりません。何らかの形で発明を実施しないと、特許権による利益は全く発生しないので、もったいないことです。

 

 しかし、中小企業の場合、直近に実施する予定の技術に関して特許申請が行われるケースが多いので、休眠になるものは少ないようです。

 

平成26年3月に帝国データバンクが出した「中小企業の知的財産活動に関する基本調査 報告書」によると、

中小企業の特許権使用率は634%で、大企業の特許権使用率の2倍に近い値とのこと。

 

 ただし、上記の数字は表面上の事実であって、実際の製品や事業をちゃんと保護できる範囲で特許権を取得し、活用している中小企業がどれだけあるのかはわかりません。

 

  私が見聞きしたいくつかの話を元にフィクション(架空)の事例をこしらえてみました。

  結構あるある・・と言える事例だと思っているのですが、お心あたりはあるでしょうか

 

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分割出願の活用を考える

 分割出願とは、1つの出願の書類の中に複数の発明が記載されている場合に、それらの中の一部の発明を抜き出して元の出願とは別の出願にする手続を言います。

 技術的特徴に共通の関係があると認められる発明は、発明毎に請求項を設定することによって、1つの出願にまとめて権利化することができ、そうする方が費用の節約にもなる、という利点がありますが、その思惑どおりにはゆかないことも結構多いと思われます。

 

 たいへん大雑把ですが、下図により、発明A発明Bという2つの発明を含む出願を想定して分割出願のオーソドックスな事例を説明してみます。ここでは、発明Aを請求項1、発明Bを請求項2として1件にまとめて出願をしたが、請求項1には拒絶理由が通知され、請求項2には拒絶理由がないと判定された、としています。

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特許明細書の読み方術

 何やら,たいそうな表題をつけてしまいましたが、これから述べることは、弁理士である小石川由紀乃が自身の経験から培った自己流の読み方であり、決して正しい方法とは言えないことを、初めにお断りしておきます。

しかしながら、特許出願の実体的書類である明細書を読む作業に慣れていない・・という方には参考になることがあるかもしれませんので、該当する、という方は、どうかご一読下さい。

あと3つほど、お断りしておきます。

1)この記事では、特許出願のために作成された明細書をチェックする作業を行う場合を想定することにします。つまり、ガッツリと明細書を読まなければならない方に向けて発信します。調査など他の目的で明細書を読む場合には、その目的によっては、「そこまでしなくていいよ」ということもありますが、その説明まで入れると煩雑になりますので、別の機会にします。

2022年5月補足:下記の記事をご参照下さい。

特許公報を読み慣れていない方への読み方アドバイス
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その商標登録で大丈夫?

 久しぶりの架空のお話です。

 アクセサリーデザイナーのFさんは、自らデザインした商品によるオリジナルブランドを立ち上げることにしました。

  当面はネットショップでの販売ですが、ゆくゆくは実店舗を立ち上げたいと考えています。

 

 Fさんは、忙しい時間をやりくりして新規商品のデザインをいくつも考案し、これらの商品化の準備を進めました。 


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我が社の虎の子知財

  先日、ブログの再開を宣言しましたが、ブログ以外の記事やサイトの構成も少しずつ更新してゆこうと思っています。 

  本日は、「助っ人知財部」のご案内ページに掲載しているロゴを、Ⓡ(R)マーク入りのものに変更しました

 

 ちなみに、商標登録を受けたからⓇ(R)を付けなければならないという決まりはありませんし、Ⓡ(R)マークが登録商標を表す正式な表示として日本の法律で規定されていることもありません。

 登録商標であることを簡単に表すことができる便利なマークですが、やたらめったらⓇ(R)付の表記をすることは避けねばなりません。ちょっとお堅い話ですが、付けても良いと言えるのは、登録の対象として指定された商品や役務(サービス)に関して登録された商標そのものを使用する場合のみにすべきと考えています。

 詳細は、過去記事(Rマークは万能か?)を御参照下さい。

 

登録第5911424号商標
     商標登録第5911424号

 弊社の「助っ人知財部」のロゴマーク(左または上)は、第45類の「知的財産に関する助言又はコンサルティング,知的財産に関する調査,知的財産に関する情報の提供」を指定して商標登録を受けております。

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「お金」のことだけで特許申請をあきらめるな!

  Bさんは、プラスチック製品の成形加工を業とする小規模企業の経営者です。

 

 主要業務が受託加工ということもあって、これまでに知的財産権を取得する必要性を感じることはありませんでした。

 しかし、家族との日常の会話からふとひらめいたアイデアにより、ある生活用品を試作し、その試作品を家族や社員たちに見せたところ、思いのほか高い評価を受けたので、はじめて特許の取得にチャレンジしようか・・という気持ちになりました。

  社員たちの積極的な意見を入れて、商品化にもチャレンジしようということになりました。

お悩みのB氏

  Bさんは、インターネットで会社の近辺にある特許事務所をいくつか探し出し、それらの事務所のホームページを見比べてみましたが、なにぶん馴染みのない業界ですので、相談先をなかなか決められません。 とにかく、気がかりなのは費用のことです。各事務所が公開している料金テーブルも見ましたが、費目が多くてよくわかりません。

 

 困り果てたBさんは、検討していた事務所のうちの1つに電話をかけ、電話口に出た事務員と思われる人に、次のような質問をしました。

 「特許に必要な費用はトータルでどのくらいになるか、教えていただけませんか・・・」 

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商標の短絡的更新にご用心!

 パン職人のAさんは、15年ほど前に独立し、住み慣れたB市で厨房付きの小さな店を開きました。勤務の傍ら自力で続けた研究・試作の成果を活かしてこだわりの天然酵母パンを提供しようと張り切るAさんは、パンの材料である「酵母」とそのパンを製造する場所を意味する「工房」とにちなんで、新しい店に「こうぼ屋」という名前を付けました。

 

 「店の名前も大事な財産。同業者に同じ名前を使われないようにしたい・・」と思ったAさんは、勤めていた店のオーナーが店の名前を商標登録したと言っていたことを思い出しました。そこで、そのオーナーに連絡をとって、オーナーが利用した特許事務所を教えてもらい、すぐに相談にゆきました。

商標登録の申請は、商標を使用する商品またはサービスを指定して行います。Aさんの場合、製造・販売の対象となる商品が指定の対象になりますので、第30類の「パン」「サンドイッチ」「ハンバーガー」「ホットドッグ」あたりを指定されたら良いと思いますよ。将来、アイテムを拡大される可能性も考えて、「菓子」「ピザ」などの近い関係にある商品も指定しておきましょう。あくまでも簡単なチェックの結果ですが、類似の商標もなさそうですね。』

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「簡単なアイデアだから実用新案」で良いのか?

「着想は悪くないと思うが、技術レベルは高くはない。実用品だし、実用新案で登録すれば良いかな・・」と思案中の男性

 実用新案は、特許と同様に、技術に関するアイデアを保護する制度です。

 「実用」という言葉の影響のせいか、イラストの人物のように、日常の不便を解決する目的で生まれたアイデアやあまり高度とは言えない技術に関するアイデアは実用新案で登録すれば良いとお考えの方が多いのですが、その認識は正しいとは言えません。

 

 昭和の高度成長時代から平成初期あたりまでは、その考えは、あながち間違いとは言えず、実用新案登録の申請手続きはたくさん行われていました。大企業でも、技術内容、事業における重要度、経費、保護が必要な期間などをふまえて、特許と実用新案とを使い分けていたように見受けます。

 しかし、現在は、実用新案が選択されるケースは非常に少なくなっています。実用新案の法制度が大きく改正されてしまったためです。

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Rマークは万能か?

 「登録を受けた商標です」ということを表すために付される(R)のマーク。

  先日の投稿:「標準文字商標は万能か?」では、標準文字商標で登録されているにも関わらず、標準文字とは大きく異なる形態の商標にⓇ(R)マークを付けて使用していることの危険性について述べましたが、標準文字商標以外の商標であっても、その問題は同じです。

 「登録を受けています」と宣言してよい商標は、商標登録を受けた商標(登録証に記載されている商標と同じもの)に限られます。他人の権利を侵害するものにならない限り、登録されたのとずばり同一でない商標を使用してはならないということにはなりませんが、その商標にまでⓇ(R)マークを付けるのは間違いです。

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