「リノベーション」ということばを最近よく見聞きします。
「修復」「改善」「刷新」と言った意味合いを持つ英語(renovation)のカタカナ表記です。
専ら、不動産・建築業界で、古びた建物や部屋を見違える状態に変身させることを表す言葉として使われ、はやりの言葉になっていますが、本来の意味はそれに限定されるものではありません。
知的財産の分野でも「リノベーション」と言えるケースがあるなぁ・・と思いあたりました。
もうとうに権利がなくなってしまったアイデアに着目し、その利点を活かしながら新しい観点からてこ入れし、もういちど世に出してゆく・・というケースです。
あの「話題のハズキルーペ」は、知財のリノベーションの良い事例だと思います。
「ハズキルーペ」を販売しているHazuki Company 株式会社は、以前は「プリヴェAG株式会社」という名称の会社でした。その前身は「株式会社エー・ジー」といいましたが、経営がたちゆかなくなってプリヴェ企業再生グループ株式会社の連結子会社となり、そこからヒット商品「ハズキルーペ」が生まれて見事に再生を果たしたのです。
少し前に、依頼を受けたセミナーの題材にと思って調べたところ、
「ハズキルーペ」の基礎技術にあたるのでは? と思われる登録実用新案にゆきあたりました。
実用新案登録第2020490号 (実公平5-31619号)
実用新案登録公報に掲載されている図面でご紹介します。
この実用新案は、株式会社エー・ジーの時代の昭和61年に出願され、平成5年に登録が認められたものです。
長時間かけても疲れにくく、良好な両眼視を得られるように、左右の凸レンズの光学軸が調整され、各凸レンズが一体になっていることを、技術的特徴とするものです。
旧制度の実体審査を経て登録された実用新案なので値打ちはあったと思いますが、その権利は同社がプリヴェ企業再生グループの傘下に入るより前に消滅していました。
つまり、この実用新案の技術はすでに誰が使っても良いものになっていたのです。
しかし、この基礎技術に着目してリノベーションに取り組んだのは、株式会社エー・ジーの再生を引き受けたプリヴェ企業再生グループの代表・松村謙三氏でした。
同じグループ内の他企業の技術も導入しての改良によって、品質が良く、洗練されたデザインの「ハズキルーペ」が誕生したのです。
眼鏡型の拡大鏡自体はすでに公知のもので、他社からも販売されていました。だからそうなったのかどうかは定かではありませんが、「ハズキルーペ」に関して新たな特許や実用新案の出願は行われてはいないように見受けられます。
私の勝手な想像ですが、細かい技術の工夫で特許を取得するよりも、一目でわかる外観の特徴や名称についての権利を抑える方が得策・・という方針があったのではないかと思います。
一方、意匠や商標は結構な数が登録されています。
最近登録された意匠の1つと「ハズキルーペ」に関する登録商標をご紹介します。
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いまや日本国民の誰もが知っていると言って過言ではない大々的なブランディング戦略にも、これらの知的財産権が相当な貢献をしているだろうと思います。
「ハズキルーペ」は、身内の知的財産をリノベーションしたものと言えますが、既に権利が消滅しているものであれば、他社の知的財産をリノベーションの対象にすることもできます。
ただし、リノベーションを行う場合に気をつけなければならないことがあります。
リノベーションの対象に選んだアイデアが他でも採用されていないか、改良されて特許出願が行われているようなことがないかを調べておく、ということです。権利がなくなったはずの知的財産をベースにして既に新たな知的財産(改良発明)が生まれているのに、それとは知らずにその改良発明に抵触するような方向にリノベーションを進めてしまうことがないようにしなければなりません。ビジネス面でも後発となるとリノベーションの価値が薄れてしまうかもしれません。
リノベーションを進める中で生まれた新たな知的財産を保護することも必要です。ハズキルーペの例でみるとおり、ネーミングやデザインは特に重要な要素となりますので、早期の権利化をはかることを意識すべきです。
株式会社知財アシスト
代表取締役 小石川 由紀乃(弁理士)
※ 「ハズキルーペ」に関する記載は、以下の記事を参考にまとめました。
https://www.zakzak.co.jp/eco/news/180724/eco1807240007-n1.html